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最後の記憶は僕の想像通り、上野動物園に出かけた日だった。パンダを見られずに引き返し、駅で帰りの切符を買っている。
「いやだー! パンダ見るのー!」
梓は駄々をこねていた。可愛いものが大好きで、ちょっと感情的な面もあった梓。そんな一面も、僕が頼りなさすぎるから押し殺してきたのだろう。
「我がまま言わないの。象さんは見られたんだからいいじゃない」
「いやだ! パンダ見るまで帰らない!」
梓は母親の手を振り払って、動物園へと引き返した。僕は梓の手を掴んだ。
「また来ようよ」
「いやだ! 悠、離して!」
「大人になって結婚したら、毎日でも僕が連れてきてあげる」
――悠といるときにもう二度と過去を後悔したくない。一緒に未来を描ける私でありたい。
それが梓の答えだった。
結局どの国も僕らを公認カップルにはしてくれなかった。僕らを認めてくれない世界ならば、僕自身の手で世界の歴史を書き換える。
「梓、結婚しよう。結婚して、大人になったら東京に一緒に住もう」
僕は梓に保育園以来のプロポーズをした。これは過去にとらわれるためじゃなくて、未来を描くための約束だ。
「約束、だからね」
涙で潤んだ瞳で僕を見つめながら、梓が答えた。意識が遠ざかる。これで正しかったのだろうか。
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