カンジョウ、ぐるぐる。

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 大崎駅に着いた。大崎駅と言えば、アルバイト先のカフェだ。アクセスできる記憶は既に同僚の(わたる)と少し話すようになった後だ。航は同い年で、隣の駅の大学に通っていた。 「悠ってさ、付き合ってる人いんの?」  史実では僕はこの時は「いるよ」とだけ答えた。しかし、彼、そして彼の恋人のアヤノさんはのちに僕らの協力者となる人物だ。だから、ここは信用してもっと踏み込んでもいいだろう。 「親に反対されて、駆け落ちしてきた」 「マジかよ、すっげえな!」 「航は?」  史実では他人に興味が持てなかった僕はこんな質問はしなかった。しかし、僕に聞いたということは彼も言いたかったのだろう。 「いるよ、同じ大学の同級生」 「航の恋人なら、いい人なんだろうな」  だろう、というか知ってるんだけど、と心の中で呟く。航の顔がぱあっと明るくなった。 「うん! 優しい人なんだ。実は高校の時から付き合ってんだ」  少し自慢のニュアンスを含み始めたので、ついマウントを取り返したくなってしまう。 「いいじゃん。羨ましくはないけどな」 「おっ? 強がりか?」 「僕らは幼馴染なので十五年間付き合ってますんでね」 「うおっ、それは素直に羨ましい」  この会話は実際はもう少し後になってから行われたものだ。少し打ち解けるペースが速まったところで、梓を救えるとは思えない。それにおそらく梓を救う鍵はここではなく、東京駅か品川駅にあるはずだ。
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