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「次は、有楽町」
車内放送が流れ、目を開ける。梓の事故は回避した。
「悠」
僕の腕の中から梓の声がする。梓はぬいぐるみの姿のままだ。どうして。
戸惑う僕を無視して、次の記憶が始まる。どうしてループは終わらない? 梓を救ったはずなのに。
僕は何もできないまま、電車は終点の品川駅に着こうとしている。僕はあの日、品川駅で乗り換えて羽田空港へと向かった。
日本の現行法で僕らは結婚できない。だから僕らはフランスに行くことにした。死者と結婚できる唯一の国へ。フランスでは生前に結婚の意思があれば法で死者との結婚が認められている。
しかし、フランスに行ったことで梓はぬいぐるみの姿になってしまった。今までのループではフランスに行ったのが間違いだったのかと、フランス行きをとりやめたり、有楽町でパスポートをとるのを回避したりしたが全て無駄に終わった。
東京駅で梓の死を回避すること、あるいはフランスで梓をぬいぐるみに変えられてしまうのを防ぐことが正解のはずだ。なのに、目を開ければいつも梓はぬいぐるみの姿のままだ。
「なあ、梓。僕はどうしたらいい?」
梓が不安そうな声で返す。
「悠は、私がどんな姿でも好きでいてくれる?」
「当たり前だろ!」
周りに人がいるのにも構わず、僕は声を荒げた。
「どんな姿でも、ずっと一緒だ。世界が僕らを認めなくたって、二人だけの世界のアダムとイブになればいい」
「だったら向き合おうよ、あの日に。フランスに行こう」
夫婦とは要するに国家公認カップルだ。国が認めてくれないのなら国を捨てようと僕は決めて渡仏したのだ。その過去を変えてしまえば、僕たちの結婚もなかったことになってしまう。そうだ。僕が戦わなくてどうする。妻を守るために、正面から妻の姿を変えた何者かと勝負してやる。
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