カンジョウ、ぐるぐる。

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 小学三年生のあの日、パンダが見られず動物園を後にした僕らだったが、梓は納得できず母親の手を振り切って動物園に戻ろうとした。そして、車に撥ねられて死んだ。享年九歳。  梓の死を受け入れられなかった僕。幽霊になってもそばにいてくれた梓。  幽霊は年を取らない。なのに僕の体だけが嫌でも成長していく。違和感にあらがうために成長を止めようとした。断食をして倒れた。 「ダメだよ、ちゃんと食べないと」  周りからの情報を遮断して生活していたが、梓に言われて仕方なく食べた。梓を置いて変わりたくない。僕はすべてが怖くなって目を閉ざした。都合のいい物だけ見ていられればいいのに、そう思って目を開けた。  目を開けると、僕と同じだけ成長した梓がいた。それは僕の幻だったのかもしれない。僕は梓が死んだことを記憶から封印したまま十年間を過ごすことになる。 「ごめんね、一緒に大人になれなくて。それでも、悠とずっと一緒にいたかったんだ」  梓が涙を流している。 「悠の目がどんどん虚ろになって、破滅に向かっていくのが耐えられなかった。こんなの共依存だって。こんなのおかしいって。だから、悠の目の前でもう一度死ねば、私が幽霊だって納得してくれると思ったの」  梓の語彙力は小学三年生のそれではなかった。それは僕と一緒に同じ時を過ごしてきた何よりの証だ。なのに、僕は梓を見ようとしなかった。梓はずっとそばにいてくれたのに、今の梓自身を見ようとせず梓との思い出の殻に閉じこもり続けたのだ。  挙句の果てに、それを突き付けられたらまた記憶に蓋をして、梓の姿を見なかった。梓が子供の姿であることから目を背け、ぬいぐるみの姿になったと思い込んだのだ。 「わかってた。本当は私が消えるべきだって。悠が私に執着しなくていいように、ちゃんと成仏するべきだって」 「違う! 僕は梓と一緒にいたい!」  僕は梓を力の限りに抱きしめた。触れることはできないけど、ぬくもりがそこにあるような気がした。 ――私がどんな姿でも好きでいてくれる?  当たり前じゃないか。見た目が成長しなくたって、僕らは同じ時を刻んできた。 「梓こそ、僕だけおじいちゃんになっても愛してくれる?」 「うん、ずっと一緒だよ」  僕は人目も憚らず、異国の地で泣き続けた。
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