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「お客さん、終点ですよ」
年老いた駅員が僕に話しかける。顔はぼやけてよく見えないが、その声はどこか聞き覚えがある気がした。
「記憶と向き合って、正解を選べたようですね」
隣には子供の姿の梓がいる。僕は正解を選べたようだ。
「ああ」
「では、行きましょうか。隠しステージへ」
ドアが閉まる。電車は車庫へと向かう。普通であれば乗客が入れない場所。
「車庫に思い出なんてないはずですけど」
「確かに、その場所にまつわる記憶はないでしょう。しかし、“封印された記憶”という意味では立ち入り禁止の場所こそが隠しステージにふさわしいのではありませんか?」
駅員、もとい僕にタイムリープを繰り返させたであろう老人が答える。
「最後にお聞きします。あなたが変えようとしている過去は、十年前のものです。十年分の歴史を変える覚悟があなたにはありますか?」
歴史を変えることは世界を変えることだ。梓と過ごした十年間。それを書き換えることは間違っているのだろうか。
「梓はどうしたい?」
今まで僕は梓と向き合ってこなかった。もう間違えない、今度こそ梓の意思を尊重する。
「私は……」
僕の覚悟が決まった。一瞬、駅員の顔が見えた。彼はどこか、僕に似ていた。
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