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どこに行っていたんだよ、と聞くべきなのだろうが、その質問をしてはいけない、と頭のどこかで警鐘が鳴る。
桃華がエレベーターから降りて、俺の方に歩いてくる。左足を引きずって。
「足、どうしたんだ?」
俺はかけよって、肩を貸しながら聞いてしまった。
「うん、あの人は右足だったから、わたしは左足。逆にしないと」
ああ、聞いてはいけなかったのに。
俺の妻は、おとなしく従順で、踏みにじっても俺を愛し続けるいちずな女だ。そして……俺を好きすぎて、壊れてる……。
背筋がゾクゾクっとした。
「あはは!」
俺はこみ上げる笑いを止められなかった。桃華の唯一の欠点である「退屈」は完璧に消え去っていた。
なんてことだ。どうやら俺はこの壊れた女を愛してるらしい。
俺は桃華を横抱きにすると、部屋に向かって歩いた。バージンロードを歩く気分だった。
「メリークリスマス、桃華」
というと、オレは桃華の頭の包帯にキスをしながら、クローゼットの中のモニターをチェックしなきゃなと思った。
――美姫が意識を取り戻しているといいな
桃華が俺にとって完璧な妻になった今、美姫への関心は限りなくゼロに近い。となると、病院に連れて行かなければならないのは、ただの面倒でしかないから。
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