カンペキな妻と壊れてる俺

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 夜11時、乗り込んでいたエレベーターのドアが開く。降りようとして、チラッと動くものが視界に入り、何の気なしにそちらに視線を向ける。 ――あれ……?  ほんの数センチ開いていたドアが閉まった。直進して左側の俺の家のドアだ。  変だな、と思う。家には妻がいるはずだ。こんな時間に宅配便でもあるまい。もしも俺を待っていたのなら、ドアを閉めるのではなくて、逆に開けるはずだ。  違和感を抱いたまま、ドアに手をかける。一瞬、もしかしてドアの鍵がかかっていて、閉め出されたのではないか? という考えが浮かんだが、そんなことあるわけない。フフンと鼻で自分の考えを退けて、ドアレバーを握っている手に力を込める。  カチャッと音がして、何の抵抗もなくドアが内側に吸い込まれた。パタパタ、とスリッパの音がして、「おかえりなさい、聡志さん」妻が静かな笑みで迎える。いつもとまったく変わりない態度に、思わずホッとする。 ――やっぱりさっきのは、俺の見間違いだな  自分がホッとしていることに気が付いて、イラついた。妻の桃華(ももか)に「心配させられた」なんて、桃華に嫌われやしないか? と気にしているようで、まったく心外だ。
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