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「ご飯は?」
「もう11時だぞ。食べてきたに決まってるだろう」
「そう」
桃華に苛立ちをぶつけたが、桃華はそれ以上何も言わず、テーブルに残してあった「二人分」の食事を手早く片付けた。
「まだ、食べてなかったのか? 俺の帰りが遅い時は、先に一人で済ませていろって言ってあるだろ」
「ごめんなさい。おなか空いてなかったから」
こういうとき、桃華はけして一緒に食べたかったから、と言わない。俺に「早く帰ってこい」と感じさせないためだ。オロオロと顎に手をやる仕草も気の弱さがにじみ出ている。その左手の小指に絆創膏が貼ってあった。包丁で切ったんだろう。
「はぁっ」
文句を言われているわけじゃないので、怒るわけにもいかない。強くため息をついて、ネクタイを乱暴に緩める。小指をどうしたんだ? と聞くのもなんだか面倒な気がした。
「あ」
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