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首がネクタイから解放されたとたん、浮気相手の美姫の香りが匂った。
美姫は同じ会社の部下で、派手な顔立ちの美人だ。ヒヤリとして桃華をうかがったが、何も気づいたそぶりはない。
美姫は桃華とは真逆の女だ。
桃華は地味でおとなしく従順で、踏みにじっても俺を愛し続けるいちずな女だ。対して美姫は、猫みたいに気ままで我がまま。刺激と贅沢が好きな女だ。
美姫と結婚する気にはなれない。その点、桃華は妻として完璧だ。退屈なことをのぞいては。退屈を埋めるのに、桃華と真逆の美姫は丁度いい。ひどい男だと人は言うかもしれないが、美姫はデートで贅沢三昧を楽しんでいるのだから、ギブ&テイクの関係だと思っている。
桃華も離婚されるよりは、外で発散して来る方がいいと言うだろう。もちろん聞いてみたことはないが。
「クリスマスだけどな、平日だから、帰りにコンビニでチキンとケーキを買ってくるよ。たまには楽できていいだろう?」
「え、でも。毎年クリスマスはわたしがチキンを焼いているし、ケーキも作っているから」
「マンションの一階のコンビニの店長に頼まれちゃったんだ。付き合いだよ。それに作らなくていいんだから、楽でいいだろ」
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