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桃華がめずらしく「でも」とかなんとか言っていたが、「もう予約しておいたから」と言って、話を終わりにした。
本当は美姫が、クリスマスには高級ホテルでディナーのフルコースを一緒に食べたいと言ったのだ。フルコースを食べた後に、桃華の手料理はさすがに腹に入らないだろう。
かといって、さすがにクリスマスの手料理を食べないというのも気が引ける。しかもどうせ俺が帰るまで、桃華は料理に手をつけないのだろう。
コンビニのチキンとケーキなら、ほんの気持ちばかり手をつければ、ごまかせる。「やっぱりクリスマスは桃華の料理じゃないとな」とでもリップサービスしておけば、かえってよろこぶかもしれない。
いい考えだな、と俺は自分のアイデアに満足して、風呂に入ることにした。ホテルで会っているときは美姫の香水の匂いは、おぼれていたいと思うほど魅惑的な香りだったが、今は甘ったるくて気持ちが悪い。早く洗い流してしまいたい。
「そういえば、さっき……」
玄関のドアを開けて、エレベーターの方を見ていなかったか? と聞きかけた。桃華は俺の話の続きを従順に待っている。
「いや、なんでもない」
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