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なぜか、聞かない方がいい気がした。桃華はきょとんとして、「へんな聡志さん」と言ってクスクス笑った。笑うとかわいくなる。桃華は印象が薄いので見逃されがちだが、実は美人なのだ。
結婚する前は、他の奴が気が付かない野の花を手折るような背徳感がよかったのだが、こう毎日グレーや黒、茶色の服ばかりを見せられていると気が滅入る。だから鮮やかな赤や黄色を身に着けた美姫に会いたくなるんだ。
――それにしても、桃華と美姫は本当に正反対だな。性格も身に着けるものも金遣いも……
湯船につかり、ブクブクと息を吐いた。何か忘れているような気がする。
――あ、そうか。絆創膏だ
俺は桃華の顎を触っている左手の小指に貼ってあった絆創膏を思い出した。
――美姫は右手の小指に絆創膏を貼っていたな
ははっと笑い出しそうになり、湯船のお湯を両手ですくって顔を洗った。
――絆創膏の位置まで逆だなんてな
風呂から上がると、桃華がお茶漬けを用意していた。美姫とワインやカクテルをさんざん飲んだが、食べたものはツマミばかりで、腹が減っていた。
「桃華は気が利くなあ。ちょうど食べたかったんだよ」
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