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鰻の匂いにさそわれ、着物に着替えたてっちゃんがわたしの肩越しにフライパンをのぞき込む。
「ああ、ええ匂いやあ。お腹なる。薫、僕のためにありがとうな」
黒髪がわたしの頬にあたりそうな至近距離に、てっちゃんの顔が現れ心臓を落っことしそうになる。
せっかく平常心を取り戻したのに、沈まれ心臓! 見た目に騙されるな。このイケメンは光源氏と心得よ。
「ちょっと、てっちゃんあっちで待ってて。邪魔だから」
姪のツンツンな態度にしょぼくれ、てっちゃんは大人しく椅子に座った。その隙に熱々のご飯の上に鰻を乗せ、たっぷりタレをかけ錦糸卵をちらす。
さきほど作っておいた、おつゆと水菜サラダを食卓に並べ、ようやく一息つく。わたしが、椅子に座るとママが食卓の上に立ち上がった。
「えー、てっちゃん。門山賞受賞おめでとう! これからも、がんばって薫ちゃんを養ってください。そして、薫ちゃんはお勉強がんばってね」
娘を捨てて押し付けた本人が、偉そうに言うな、というつっこみは本人死亡のため封印した。そして、爽やかイケメンの突然の出現により忘れていた己の状況を思い出す。
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