第一章 都のはずれ

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 肩までのびた髪はきっちりとひとつにまとめ、温和な笑みを浮かべ、ファンサ中であった。 「さすが先生の姪御さんですよ。柏木(かしわぎ)さんは国語で、学年一位。五教科総合でも十位以内に入ってます。第一志望は、京都公立大学の法学部ですがたぶん大丈夫だとは思います。ですか、一応私立の滑り止めも何校か検討してください」  面談時間残り五分となりようやくわたしの話題となる。進路調査では第一志望しか書いておらず、私立の滑り止めを受ける気はない。  それでも、先生の提案にわたしはこくこくと従順にうなずいておいた。その首肯で話題は再びてっちゃんへ。 「お姉さんの娘さんを一人で育てられてるなんて、感服いたします」  そんなちょっといい話ではないんですよ。壮大な美談を想像している先生に、水を差すわけにもいかず黙っていた。  お尻のあたりがもぞもぞと痒くなり、チラリと横を見る。アンニュイな空気をまとい、教室内だというのに煙草をくゆらせている純文学作家……。
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