3人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうですとも、わたくし異星人ですし、高い科学技術も持っていますので地球の言葉の翻訳もお茶の子さいさいなのです!ソノベユミル。やっぱり、貴女がユミルだったのですね。わたくしの記憶と勘は間違っていなかった!わたくしずっと、貴女に会いたかったのです!」
彼はポケットから飛び出すと、よいしょ、と私の肩まで這い上がってきた。そしてちょん、とふわふわの手で私の頬を撫でて言ったのである。
「あの時は、本当にありがとう!貴女が優しくしてくださったから、わたくしは地球人とはとても良いものだと、この惑星にまた来たいと思えたのです。ユミル、貴女は今、何かに悩んでいたのではありませんか?わたくし、貴女に恩返しがしたくてたまらないのです。何でもいいから、何かできることはありませんか?そうそう、貴女は幼い頃、絵本作家になりたいと言っていましたね。その夢をお手伝いするというのでもいいですよ!」
絵本作家。そういえば、彼にはそんな話もしていたっけな、と思う。
実のところ、大学ではデザインも勉強していたのだ。しかし、周りにいるのは私よりずっと絵が上手くて、ずっと才能がある子たちばかり。自分には絵を描くセンスもなければ、お話を考える発想もない。――早々に諦めて、一般企業に就職したのである。その結果、くだらない人間関係に振り回されて、毎日疲れ果てているわけだが。
――あの時は、楽しかったな。才能とか、センスとか、そんなことも考えずに……ただ当たり前のように未来を夢見て、やりたいことを考えてさ。
その気持ちを、自分はいつ忘れてしまったのだろう。
ああ、封印していたのかもしれない。――朝起きて、マックがいなくなって。彼が消えてしまった悲しみと一緒に、忘れたことにしたのかもしれなかった。
本当にイライラしていたのは他人に対してじゃない。やりたいことをやることも、言いたいを言うこともできない――自分自身だったというのに。
「……じゃあさ」
これがどうか、酒に酔った勢いで見たくだらない夢ではありませんように。
「明日も休みなんだわ。今夜は家で、お酒と愚痴と……ちょっとした妄想に付き合ってくんない?朝まで」
ちょん、と彼のふわふわの頬を指でつつきながら言う。
今夜は少しだけ子供に戻って、夢を語ってみようか。――彼が一緒なら、一人きりの家に帰るのも空しくはないのだから。
最初のコメントを投稿しよう!