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元にもどろう
ルイは、モエが消えてしまったあの日からの事をモエに話した。
モエは自分が過ごしてきた日の事をルイに話した。
モエが見たのは、トラックが突っ込んできたあの保育園の前の横断歩道で消えたのはルイだったと言う事だった。
母親のエミがルイに『保育園に入りなさい』と言った時にエミがモエの方を向いている間にルイはモエの横を通り過ぎて、空気の間にできた亀裂に吸い込まれてしまったと言うのだ。
モエはエミが抑えていたので無事だった。
そして、モエを保育園に預ける時にエミが担任の保育士さんに今起きたことを話すと、
「最初からモエちゃんしか預かっていませんよ。ルイ君って誰ですか?」
と、言われてしまった。
その後、急いで、パパのリクに電話をしたが、
「自分たちの子供はモエだけだよ。ルイってどこの子だい?」
と、聞かれる始末だったという。
まるで、逆さまの事がルイとモエにだけ起こっていたのだ。
その後、モエは家の近くのルイが好きだった景色の場所をルイを探して散歩することが多くなった。大好きな絵を描くと、エミには嘘をついて。スケッチブックをもって。
そうすると、景色の向こうに時々ルイの姿が見えるような気がした。
それも自分の知らない大きくなったルイの姿も見えるようになった。
モエは大きくなると、秋の山に登ったり、ルイが大好きだった銀杏と青空のコントラストを眺めたりしたという。
自然の中を歩くうちに元々家にいて絵を描くのが好きだったモエは、最初は散歩の口実の為にスケッチブックを持っていたのだが、絵を描くことが大好きになって、この芸術系の大学を受験していたのだそうだ。
ルイは、きっとその時のモエをカメラの中で見たんだ。とモエに話した。
そして、ルイが見るとその画像からモエが消えてしまっていたことも。
ルイとモエは、何とかして、また双子として、同じ家で暮らせないか色々と話をした。
今、両親は二組いて、同じような景色の所に住んでいる二人は、実は全く違う住所にいることも分かった。
モエの方の父親のリクが、エミの気分転換の為、少し郊外の家に引っ越したと言うのだ。
二人はきっと、あの保育園の前の横断歩道に何か秘密があるのではという結論に至って、あの亀裂の入った横断歩道まで行ってみた。
ちょうど、あの日と同じように、横断歩道を左に渡ろうとしている自転車の親子連れがいて、後ろから来たトラックが危うく自転車を引きそうになっていた。
そして、あの激しいブレーキ音が
『キキ~ッ!!!!!』
と、響いた時、驚いたことに、時空に亀裂が入った。
二人は思わず、手をつないだまま同時にその亀裂に飛び込んでしまった。
そして、顔を見合わせた。
あの時はお互いにどちらかが入ったのを見ていたのに、これで良かったのかな?
とりあえず、大学に近いルイの家に行ってみた。
なんだか、家に帰る道がいつもより濃い色合いな感じがして不思議だった。
「おかえり。今日は早かったね。」
母親のエミが入院先から帰っている。
何事もなかったようにお茶を二人分入れ、何故か、モエが実家で使っていたと言うマグカップがモエの前に置かれた。
二人は色違いでお揃いのマグカップを偶然使っていたようだ。
ちょっと宿題があるから。と、自分の部屋に帰るふりをして、これまで、ルイの家にはなかったモエの部屋に二人で入った。
モエはこれはこれまで自分が育った家と全く同じ部屋になっていると驚いた。
それでは、モエの家はどうなってしまったのだろう。
いそぎ、モエが家に電話をする。
『この電話は現在使われておりません。』
というアナウンスが流れた。モエの母親でもあるエミの電話番号に掛けると同じように
『この電話は現在使われておりません。』
というアナウンスが流れた。
ただ、不思議なことに、モエの記憶している電話番号はルイの家にいるエミの電話番号と同じだったのだ。
その後、ルイがエミに電話を架けると
「なぁに?家の中にいるのに電話だなんて。」
と、叱られた。
その後、モエが、さっき不通だった自分の電話から、再度エミの電話に掛けると、今度はちゃんとつながったのだ。
「なんなの?さっきルイからも電話が来たわよ?二人して遊んでるの?」
と、叱られた。
どうやら、モエの電話はこちらの世界とつながったようだ。
二人であの亀裂をくぐったことで、モエの家族は消えてしまったのだろうか。
それとも、実はモエ側の家にも、二人が存在することになっていて、モエ側の方からするとルイの家が消滅していることになっているのだろうか?
あの不思議な亀裂の向こうはどうなっているかはわからないけれど、ずっと会いたいと思っていた双子はまた一緒に住めることになったのだ。
ルイとモエは、自分たちが何者でどの世界にいるのかは深く考えないことにして、どちらの世界でもいい。再び会えたことに感謝した。
そして、なにより、一番心を痛めていた母親のエミが、何の心配もなく、ニコニコと二人の世話を焼くのを、柔らかい心で受け止めて、今いる世界で自分達の人生を生きて行こうと二人で約束したのだった。
【了】
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