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再会
エミはモエがいなくなってから少々精神に異常をきたしてしまった。
自分がモエの事を『女の子は少し面倒だな。』なんて思ったりしたから罰が当たったんだ。
そんなふうにずっと自分を責めながら暮らしていたので、すっかり暗くなり、モエの事をいなかったように接してくる周囲の誰とも話をせず、夫のリクとも話さなくなり、家にこもりきりになった。
話し相手はルイだけだった。
夫のリクはそれでもエミが何か自分に言えないルイの事で思い悩んでいるのだろうというふうに考え、あまり追い詰めずになるべく普通に接せるようにしていた。
エミとルイはいつでもモエの事を忘れたことはなかった。
ルイは、実は何度もモエを見かけているのだ。
ルイは幼いころから外の景色を見るのが好きだった。そして、ふさぎがちな母のエミにも見せてあげられるよう、風景写真を撮ることに夢中になった。
父のリクは、あまりかまってあげられないルイの為にカメラを買ってくれた。
ルイは小学校の高学年から、結構高価なカメラを使って、風景をとるようになっていた。もちろん、デジタルのカメラだが、人気の機種で風景を鮮やかに写すことができた。
母親に見せたいと懸命に美しい風景を探すルイのカメラには、時折、モエが写り込む。
ただ、そのデジタル画像はルイが見るとすぐにモエの姿が消えてしまい、どうしても母のエミに見せることはできなかった。
春の桜の花の枝の隙間から、桜の花散る花弁の間から。
夏の眩しい日差しの影から、水辺の波の間から。
秋の山の美しい紅葉の間から、銀杏の木の金色の葉っぱと青空の間から。
冬には美しい雪山にぼんやりと。
季節を何度も何度も巡るたび、モエはルイにだけ姿を見せた。
モエがルイと同じように大きくなっているのをルイは見ていた。
画像に残るモエはいつでもルイの方を見ている。
忘れないでと言うように。
痩せてしまったり、みすぼらしかったりしていることはなかったのでルイは安心していた。
ただ、ルイはモエの事は忘れないけれど、自分の学校の友達もたくさんできて、母親であるエミとの会話も減っていった。
エミはモエの事を覚えているのはじぶんだけなのだと、ますますふさぎ込んで、身体を壊して入院してしまった。
ルイの心の中にはいつもモエがいて、エミの思うようにモエの事を忘れてなどいなかった。
ただ、周囲の誰もモエの事を知らないので口出して話すことはモエが消えてしまってからすぐにやめていた。
ルイはその後、大学へ進学し、家を離れていた。
大学はカメラを極めたくて芸術系の大学を選んでいた。
20歳になって、新しい履修科目の授業に行ったとき、教室にモエがいた。
モエはルイが何度も見てきたように成長し、二卵性と言っもルイとはやはりよく似た顔立ちの女の子に育っていた。
モエは周囲の友達に一言二言言葉をかけると、ルイの方に向かって歩いてきた。
「やっと会えた。」
そう言って、ルイのシャツの袖をもって泣き出した。
最初の授業の講義だったので、ルイは、モエに隣に座るよう言って、授業が終わるまで待った。
授業の後、二人は大学の近くのカフェで話した。
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