時空の裂けめ

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時空の裂けめ

 2023年も終わりかけたある日。  あぁ、でも、クリスマスだった。  なんとなく、月曜日でクリスマスと言う気分ではなかったのだ。  仕事はまだ冬休みではないので、双子のルイとモエを保育園に預けに行く。  自転車の前と後ろに一人ずつ載せて、しっかりヘルメットを被せて、防寒用のシートにすっぽりと入れる。  ルイは景色が飛ぶのを見るのが好きなので前の席。  モエは怖がるので、後ろの私のお尻しか見えない席へ。  母親である私、エミもしっかりとヘルメットを被って出発。  自転車を走らせながら考える。  今日はいいお天気だ。  きっと保育園では子供達を外に連れ出して遊ばせてくれるだろう。  お昼寝を沢山させるために。    もう、最近はお迎えの後には暗くなってしまうし、寒いので外では遊ばせられない。家に帰っても疲れるくらい外遊びさせてくれればいいのに。なんて、ついつい考えてしまう。  5歳児のルイとモエは男女の二卵性双生児。ルイの方が活発ではあるが、モエも体力ではルイに負けてはいない。むしろ、動かない分、宵っ張りで絵本の読み聞かせをしてもなかなか寝ないのはモエの方だ。  女親から見ると、単純で扱いやすい男の子のほうが可愛いと言うママ友が多いが、エミは双子と言う事もあり、特にルイだけが可愛いとは思っていなかった。でも、モエは保育園で色々な言葉を覚えて、女。という性をだんだん育てつつある。小さくてもやはり女は女。母親としてはいつまでも子供でいてほしいものなのだが、思い通りにはいかない。  自然、ついつい家でもモエの方を叱ることが多くなっているこの頃だ。 『あぁ、でも、クリスマスなんだから今日くらいはちょっと位、言葉遣いが気に入らなくても怒らないように気をつけよう。』  エミは横断歩道を渡れば保育園と言う所で、左側の横断歩道の青信号を自転車に乗ったまま渡った。その時、後ろから来ていた直進のトラックが横断歩道に突っ込んできているのに気づかずに。 『キキ~ッ!!!!!!』  トラックは急ブレーキをかけ、エミもトラックの反対側の右へハンドルを切った。  なんとか接触は避けられた。  子供たちのシートにはベルトがついているので自転車が倒れても直接落ちることはない。  自転車はほぼ倒れてしまい、エミは慌てて、自転車から降りて、ガードの少ないルイの方から先に自転車から降ろした。どこにも怪我はなさそうだ。  そして、モエを降ろそうとした時にトラックと自転車の間の空気の層に亀裂が入り、周囲の砂や、小さなゴミが吸い込まれて行くのが見えた。  なんだろうと思ったが、とにかくモエを降ろさなければ危ない。  エミは急いで、モエを降ろそうとしたが、ベルトを外した時に、モエの身体がフワリと浮き上がり、エミが急いでモエの足を掴もうとしたが、自転車のシートが邪魔になり、掴めなかった。  エミはルイに『保育園に入りなさい。』と言い残し、モエを捕まえようと自転車に躓きながらも後を追ったが、モエは亀裂に吸い込まれてしまった。  更に追いかけようとしたが、モエが吸い込まれた途端に亀裂はピタッとふさがってしまった。  エミが呆然としていると、トラックにクラクションを鳴らされ、ハッとして、急いで自転車をおして、保育園に向かった。  トラックからは亀裂は見えない様だった。  保育園に入ると、ルイは半べそを書きながら 「ねぇ、モエは?どこ?」  と、モエの姿を、エミを見ながら探している。  エミは保育園の担任の保育士に事情を話したが 「ルイ君はお預かりしますね。モエちゃん?何かの勘違いですか?最初からお預かりしていませんよ?」  と、言われてしまった。  エミは急いで夫のリクに電話をして、今起きたことを話したが、リクは 「モエってどこの子の話だい?おいおいしっかりしてくれよ。俺たちの子供はルイだけだろう?」  と、言い出す始末だ。 『そんなばかな!』  モエは姿どころか、モエのいたはずの記憶までこの世の中からは消えてしまったようだ。  モエが消えてしまったのを知っているのはルイとエミだけだった。    モエはどこに行ってしまったのだろう。  
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