side ハロルド

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side ハロルド

 俺の母親は、俺を産んだと同時に他界した。  父である国王が幼い時から愛した女性は、俺のせいで死んだのだ。  国王は母上が死んだ原因である俺を憎んでいたので、俺には国王と一緒に過ごした思い出はほとんどない。それでも幼い時は国王の気をひこうと、勉学や剣術も頑張ったが、俺には凡人としての才能しかなかった。  王妃の座を空席にするわけにはいかないと周りが急かしたことで国王はすぐに再婚し、物心つく頃には弟がいた。  弟のカエサルは勉学や剣術にも優れ、現王妃の息子である彼こそが次期国王の座に相応しいと周りが噂した。俺が、十五の成人の儀で王太子に任命されなかったのもその理由のひとつだろう。    では、国王が弟に肩入れし可愛がっていたかというと、そうではない。  国王は常に無気力だった。政務はしていたが充分とはいえず。また、王妃を愛していたかと聞かれれば、首を振るしかない。  夫婦のことだから本人達にしか分からないこともあるだろうが、国王が俺の母親が使っていた部屋をずっと残し、夜は夫婦の寝室ではなくそこで眠っていたのは事実だ。  そのせいだろうか。全く興味を示されていない俺だが、それでも国王が愛した女の息子。王妃は俺を憎んでいた。  初めておかしいと思ったのは十三歳の時。国王が行った災害対策が不十分で大きな被害が出たのを、なぜか俺の失策とされた。  意味が分からず国王に助けを求めるも、国王は何も言わなかった。俺に責任を擦りつけることも、否定することもしない。周りはそれを息子を庇ってのことだと解釈した。  そのようなことが度重なり、いつの間にか愚鈍な兄に、優秀な弟という図が出来上がった。そして、俺を慕ってくれていた人達が、次々と違う場所に移動していった。      次に異変を感じたのは食事だ。  毒見役が三ヶ月おきに代わるのを妙だと感じつつ、特段気にせず過ごしていたのだが、妙に身体がだるい。頭が充分に働かず、言われたことを忘れたりぼんやりすることが増え、僅かに俺を慕っていた臣下までもが呆れ俺のもとを去っていった。  おかしい。  それは分かるのに常に頭の中に靄がかかったままで、どうすべきか分からない。    そんな時。  庭でぼんやりと過ごしていた俺が、出会ったのが数ヶ月前に聖女と認定されたエスティルだった。不安そうに周りを見回す姿に気づけば声をかけていた。 「……迷ったのか?」 「はい。慣れない場所で……ここはどこでしょう?」  小さく枯れ枝のような身体をさらに縮こませ、所在なげにしている彼女を俺はただぼんやりと眺めた。  視線が合う。  青い瞳が大きく見開かれた。  おおかた、俺が誰だか気づいたからだろうと思っていると、急に真剣な顔で駆け寄ってきて俺の手を取った。  確か、こんな風に触れるのは不敬だったはずと、力無く考えていると、がしりと肩を掴まれた。 「どうしてこんなになるまで周りは放っておいたのですか!?」  青ざめた顔に意味が分からないと瞬きすると、エスティルはごくんと喉を鳴らし、真剣な瞳を俺に向けた。 「殿下は毒に苛まれています」
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