ちゃんと見つめて

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ちゃんと見つめて

 胸のモヤモヤの正体を、本当は知っていた。  これが〝恋〟であることは、わかっていた。  そして、僕が今失恋したということも。  わかっていたけど、わかりたくなかった。  僕が『好き』だとか、簡単に言っていいような相手ではなかった。  でも…。  キミの横顔を、僕以外の人に見られるのは、気に入らなかった。  だから。  せめて、横顔だけじゃなくて正面からちゃんと見つめたい。  それで、僕らの関係が少しだけでも変わるなら。  それ以上何も望まない。  友達だとか、ましてや恋人になりたいなんて、決して言わない。  だからその瞳を、真正面からちゃんと見つめたい。 「山田くん」  不意に、名前を呼ばれた。  昨日聞いた声。  そう、キミーーーー柳田ユナさんだ。 「柳田さん……」  僕は恐る恐る、柳田さんの顔を見た。  透き通るように綺麗な肌。  ガラス玉みたいに綺麗な瞳。  ほんのり赤く染まった頬。 「僕に、何か用?」  ドキドキしているのがバレないように話しかける。僕の精一杯の抵抗だ。 「うん…あのね、これ」  そう言って、柳田さんが手渡してきたのは、僕のスケッチブックだった。 「これ、美術室に落ちてて…」  僕は、悪い予感を抱えながら、スケッチブックを見た。  …柳田さんの横顔が、たくさん描かれていた。  あ…終わった……。 「「ご、ごめんなさい!」」  僕は慌てて謝った。  けど、何故か謝っていたのは僕だけじゃなかった。 「なんで、柳田さんが謝るの?」 「なんでって…私が、勝手に山田くんのスケッチブックを見ちゃったから!」  あ、そっちか。  でも、僕が無断で柳田さんを絵を描いていたことには変わりない。 「ねえ、一つ確認なんだけど…」 「うん…」 「このスケッチブックに描いてある人って、私?」  …やらかした。 「…ごめんなさい!あの、柳田さんの横顔が綺麗で…思わず、描いちゃったんです!もう、このスケッチブック捨てます!ピリッビリに破いて捨てますからっ…」  僕が必死の形相で謝ると、何故か柳田さんは頬を赤く染めた。 「き、綺麗って……都合よく解釈しすぎかもしれないけど…それって、私のことが好きってことであってる?」 「え?ああ、一応、そうだけど…」  この際、嘘をつく理由もないと思い、正直に言った。 「あの…こんな私でよかったら…その、、、」  え?  これって、まさか…? 「その、付き合う?…なんてね、あははは…」 「いや、柳田さんがいいなら…」  ああ、もう顔から湯気が出そうだ。  でも、この先に未来があると思うと、胸が躍った。  キミの横顔は、魅力的だった。  でも、これからは。  キミを真正面からちゃんと見つめられるような未来を作っていきたい。  キミと、いつまでも。
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