1人が本棚に入れています
本棚に追加
失恋の痛みは
僕は一応、美術部に入っている。
〝一応〟というのは、僕以外にほとんど誰もいないからだ。
部に顔を出しているのは僕と部長・新川先輩と一年生の鈴木さんだけ。あと2人ぐらいいるらしいけど、いわゆる幽霊部員というやつなのだそう。
僕は今日、コンテストに出すための絵を描いていた。
だから帰る時には、もう空は藍色に染まり始めていた。
僕は、誰もいない静かな階段を降りていた。
すると、どこからか人の声が聞こえてきた。
声の高さからして、女子だろう。
まだ学校にいたのか。まあ、僕もだけど。
僕は気にせず階段を降りていった。
だが、その話し声はどんどん大きくなっていき、ついにはすすり泣き声まで聞こえてきた。
流石に、泣いてる女子のそばを素通りするのは気まずいだろう。僕は泣き止むまで、階段の影で待つことにした。
でも、何故か気になる。
見ず知らずの女子のはずなのに、放っておくことが、できない。
仕方なく泣き声のする方を見ると、そこには3人組の女子がいた。
どうなら、泣いているのは真ん中の女子みたいだ。
「…私じゃっ、だめ、だったのかなぁ?」
「そんなわけないじゃん。多分、田口の見る目がないだけだよ!」
「田口、おっぱい大きい人しか好きじゃないって、聞いたことある」
田口っていうのは…確かあの前の席の男の名前だったはず。
おそらく、泣いている女子は田口にフラれて、失恋の痛みに悶えて泣いているのだろう。
それを、後の2人が慰めている。
「はあ。ほんとムカつく!なんでユナをフッたのよ⁈ほんと信じらんない!」
「田口って、結構女子にモテるけど、胸しか見てないらしいよ」
「は?サイテー!」
「ちがうの…私が、可愛くないからだよっ…田口くんは、悪くないっ!」
「いや、ユナめっちゃ可愛いから。田口の目が腐ってるんじゃないの?」
あの田口っていうやつ、そんなにクズなのか。
そういえば、この泣いている女子は誰なんだろう。
「あんなやつ、忘れなよ!ユナは可愛いからすぐに彼氏できるよ!」
「うん…っ!ありがとう…」
どうやら、今から帰るみたいだ。
僕は女子の話を盗み見していたとバレないように、泣いていた女子の少し後から階段を降りた。
そしてふと、思い出す。
…ユナ?
確か僕がいつも絵を描いていたキミは、ユナという名前だった。
じゃあ、さっきの泣いていた女子は、キミだったんだ。
ということは、キミはあの前の席の男ーーーー田口が、好きだったのか。
…なんだか、胸がモヤモヤした。
最初のコメントを投稿しよう!