12月。

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 好きになるのに理由があるのだとしたら、なんなのだろう。  私はいつの間にか好きになっていた。いつの間にか和哉と一緒にいて、いつの間にか付き合って、そしていつの間にか別れがやってきた。全部、風のような速さで、それでいて油彩絵の具のような濃い時間でもあった。別れたのはもう十年は前になる。正直、付き合っていた頃になにを話していたかや何処へ行ったかなどという記憶はもうほとんど残っていない。均整の取れた筋肉質な体は黒のタンクトップがよく映えていた。片耳だけのピアスも少しだけやんちゃそうに見えて好きだった。そんなシルエットの印象しか付き合っていた頃のものはない。あの頃、私たちはなにをそんなに幸せそうに話していたんだろう。 「今でも電話、掛かってくるの?」 「うん。本当にたまにだけどね。年に1・2回とか」  別れて二年くらい経った頃から、私たちはまた連絡を取るようになった。最初は私からが多かったけれど、気付けば向こうからも来るようになった。 「都合良く使われてるだけじゃない」 「それでもいいのよ、頼ってもらえるならそれだけで嬉しいから」  和哉はいつも落ち込んだ時にだけ連絡をよこした。何を話すでもなく、ただ元気にしてるの?と聞いたりするだけ。あとはこちらの近況報告をしたり、和哉の近況を探ったり。自分から話をするタイプではない彼が、それでも電話をくれるその意図はずっと図りかねていたけれど、離れてからの方がずっと私たちの距離は縮まっていた。  元彼に熱を上げていたときは和哉からの連絡も普通に取れていた。心に波風を立てることはなかった。彼氏がいることも、その元彼の時だけは話していた。それだけ一緒にいられると真剣に思えた人だったから。けれど、二年という歳月が元彼との関係を風化させて、そんなときの和哉からの電話で私は元彼との終わりを悟った。本当は、今すぐにでも会いたかった。
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