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「彼氏とうまくいってんの?」
和哉は電話でそう聞いた。12月22日のことだった。イヴはもう間近だった。
「うまく…いってはいると思うんだけど…」
「けど?」
和哉の声を聞いた瞬間に、風化しただけだった思いに終止符が打たれたのが分かって、私は思わずそう口にしてしまったのだった。
「たぶん近々別れるかな」
「なんそれ」
うまくいってるのに別れる、そう言われたらなにそれと返すのも当然だろう。あなたに会いたいから、なんて言えるわけもなく理由を探す。
「んー、熱を上げてた頃は良かったんだけど、結局、熱しやすく冷めやすかったってことじゃないかなと」
たしかにそういうところが私にはある。和哉に対してだって、冷めた時期は何度かある。それでも、結局戻ってしまうのだ。好きという感情が。和哉にだけはどうしたって戻ってしまう。
「冷めたってこと?」
「まぁ、ありていに言えば。それに、たぶんもうすぐプロポーズされそうなんだよね。だから、そうなる前に別れてあげないと、向こうがあんまりにも悲惨でしょ」
「そこまでいってて別れるなら、十分悲惨だけどな」
「そうだけど」
何でも話せるようになった私たちは、それでも友達とは違う関係なのだと思う。和哉は連絡を取り始めた頃に比べると、随分と元気になったし口数も増えた。それだけで私は嬉しくなってしまう。和哉が元気でいてくれることが、私の幸せみたいなものだった。
そこで、私はやっぱり我慢できなくてつい言ってしまった。
「結局、和哉が一番好きなんだよね」
この言葉は、私が元彼に熱を上げているときを除けば、もうずっと言ってきたことだった。ここに一番の味方がいるよ、一人は味方がいるよ、そういうつもりでずっと口にしてきた言葉だったのに、今言うと違う意味に響いてしまうことに言ってから気付いた。
「はは、なんそれ」
苦笑しながら、いつものように和哉が返してくれた。それで少しほっとする。
「寄りを戻したいとかじゃなくてね、和哉を好きで、和哉をこうやって遠くから応援できる今が私にとってはもう幸せなんだよ」
一つの噓を織り交ぜたが、それでも言ってすっきりした。
私たちの物理的距離は本当に遠い。東海と九州では会うことさえ簡単なことではない。それでも、私は二度彼に会いに別れてから九州に行ったことがあるし、彼もまた、こちらに用事があるときはうちに泊まっていった。その度に私たちはお互いに肌を重ねた。私たちにとってはそれが自然なのだ。しないことの方が不自然で、そこに感情があるかなどは二の次だった。もちろん私はあったけれど、彼の性欲に身を任せて抱いてもらえることだけが幸せだった。その瞬間に、本当は死んでもいいくらい幸せなのだった。
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