翌々年の5月。

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翌々年の5月。

 あれから、また何度か和哉とは電話をした。いつも通り、他愛もない話ばかりだった。そして、もう彼氏を作るのはやめることにしていた。どうせまた和哉のことが忘れられないからという理由で別れがやってくると分かっていて、誰かを犠牲にすることができないと思ったからだった。好きなら好きでいいか、と思ってから私はなにかから解放されたように楽になった。好きでいよう、と決意したわけでもない。そんなものはなんの役にも立たないのだ。忘れよう、と決めることと同じように。 「本当に来るとは思わなかった」  隣を歩く和哉をまじまじと見ながら私は言った。 「友達の結婚式だし、そりゃ来るよ」 「そうだけど、まさか本当にうちに三日も泊まるとは思わなかった」  そう。友人の結婚式に呼ばれて彼はこちらにやってきたが、なんだかんだ友達のところに泊まるとかいうことになるんじゃないかと思っていたのに、見事に結婚式の時間以外のすべてを私と過ごしてくれていた。  今日は最後の泊まりの日。夕飯の買い出しの帰り道だった。 「ん」  そう言って、彼が私の買い物袋を持ってくれる。 「え、どういう風の吹き回し?」  今までではありえないことについ驚いてしまう。 「たまには優しいところも見せとかないとな」  彼は涼しい顔をしてそんなことを言った。私はただただ戸惑ってしまう。これはどういうことだろう。こんな風に荷物を持つような男ではなかった。こんな風に素直に優しい男でもなかった。これはどういうことだろう。 「なにそれ」  今度は私がそう言う番だった。彼は笑うだけだった。  和哉とはひっきりなしに話すような感じではない。むしろ話していない時間の方が多い。二人でテレビを見たり、サブスクで映画を見たり、時には和哉が私の部屋の漫画を読み漁ったりしていた。けれどそんな時間が少しも気まずくはなくて、むしろ居心地が良かった。  昔は先の事など考えずに、今だけを見つめる付き合いをしていた。和哉は電話で私と長く付き合うつもりはなかったと話したことさえあった。けれど、今は一緒にいるビジョンが自然と浮かんでしまって、どうしていいか分からなくなってしまった。こんな風に、私と過ごしてくれるなんて思ってもみなかった。
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