翌々年の5月。

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 夕食の後、私はダメ元で和哉に昔と同じことを口にした。 「ねぇ、なにか身に着けてるもの、ちょうだい」  昔、まだ付き合っていた頃にそう言って時計をもらったことがあった。私にはぶかぶかでごつくて、女の細腕に嵌めるような物ではなかったけれど、私はサイズも直さずにそれをよく嵌めていた。けれど、もう忘れよう、と思った時期に処分してしまったのだった。それを今になって後悔していた。 「身に着けてるもん?」  和哉は考えるそぶりを長いことして、それからふいに片耳のピアスを取って私に渡してくれた。 「こんなんでいいの?」 「え、逆にいいの?」 「いいからあげてるんだけど」  この行動にもまた疑問が浮かぶ。これは、どう捉えたらいいのだろう。私はいつももう会うこともないのかもしれないからと思って、和哉と会うたびに好き勝手に色んなお願いや誘惑をしてきた。応えてくれるものもあったけれど、物をくれるなんてことては今までなかった。  ありがとう、と言って私はすぐに自分の耳に付けた。大きめのダイヤのようなガラスのついたピアス。家宝にしよう、と思った。なんだか今なら何を言っても許されそうな気がして、私はまた口を開いてしまう。 「ねぇ、一緒にお風呂入りたい」  一瞬戸惑う様子が見て取れたが、それでも和哉はいいよ、と言った。  1Kの部屋の狭い浴室は、和哉の大きな体でいっそう狭くなる。けれど、それで良かった。それが良かった。 「ふふ、狭いね」  浴槽に二人で入って私がそう言った。 「だったら言わなきゃよかったのに」 「狭いからいいんじゃない。こんなにぴったりくっつける場所なんてなかなかないよ?」  私はさも嬉しそうに見えたことだろう。和哉はどう思っていたのだろうか。  結局、お風呂から上がると髪を乾かしてすぐにベッドに向かうことになった。もちろんそれを見越しての誘いではあったのだけれど。 「ここも狭いな」  和哉がシングルベッドの上でそう言った。 「じゃあやっぱり、くっつかなきゃだ」 「もうくっついてるじゃん」  抱き合う私たちはいつもよりい饒舌で、幸福だった。彼のモノが大きく硬くなっていくのが嬉しかった。私に欲情してくれるというそれだけで満たされてしまう。もっと、女として見てほしい。そんな欲望が湧いてくる。
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