翌々年の5月。

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 私たちはたくさんのキスをした。私がキスが好きだから、つい求めてしまうのだ。それに嫌な顔せずにすべて応えてくれるのはいつものこと。和哉とは体の相性も良かった。不意に、キスの相性が一番良かった人を思い出した。キスだけで蕩けそうになるほどの人がいた。けれど、私は和哉に出逢ってしまったのだ。一瞬の思い出を排除して、和哉に集中した。明日にはもう、和哉はここにいないのだ。今ここにいる和哉を、ひたすらに味わっておかないと。 「ねぇ、こっち見て。もっとキスして」  私は駄々っ子のように懇願した。もう会えないかもしれないなら、溺れてしまいたかった。愛なんてなくてもいいから、熱情にただ溺れてしまいたかった。この体温と快楽に、溺れ切ってしまいたかった。 「ん」  和哉はそう言って、またキスの雨を降らせてくれた。幸せだった。繋がった瞬間、本当に今ここで死んでしまいたいと思った。  情事が終わると、二人してベッドを背もたれにして煙草をふかした。お互い電子タバコになったお陰で、もうベランダで吸わなくてよくなったのだった。昔はお互い紙煙草で、禁煙にしている私の部屋では絶対に吸わせなかった。  女はよく、情事の後に煙草を吸われるのを嫌がるというけれど、お互いが吸っていればなんの問題もないのだ。吸っている間も、ぴったりと横にくっついていた。 「あのさ」  黙って余韻に浸りながら煙草を吸っていたときに、和哉がふとそう言ってこちらを見た。どこか真剣な目をしていた。すこしの間をおいて、口を開く。 「俺、こっちに来てもいいかなと思ってるんだけど」 「え」  それはもう告白と同じようなものだった。 「お前いるし、こっちで仕事探して住んでもいいかなって思ってる」  それが結論だった。 「どこに住むの?」 「お前が良ければ、ここで」 「狭いのに?」 「狭いのがいいんだろ?」  お互い噴き出した。どうやら、夢なんかではないようだ。  1Kに二人暮らし、そんな夢のような現実がこれから待っているのだと思うと、また私は今死んでもいいなと思うのだった。
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