12月。

1/5
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

12月。

 クリスマス・イヴに彼氏と別れた。理由はあげればいくらかはあったけれど、一番は忘れられない人がいるからだった。本当はディズニーランドに行く予定で、ホテルも予約していた。けれど、イヴ当日に今日は行けないとメッセージを送ったのだった。  気付いていたからだった。彼が、このイヴという日を使ってプロポーズをするだろうということを。そして、それが起こる前に決着を付けなければならなかった。行ってから別れ話をするのは、あまりもに気まずすぎる。  彼とは職場恋愛だった。部署が違うので普段会うことはないが、今ではもうなくなった会社の忘年会で彼と知り合った。お酒の席ではあったが、誠実で実直な人なのは感じ取れた。連絡先を交換して、仕事終わりに飲みに出たりもした。いつしか休日に映画に行くようになり、カラオケに行くようになり、そうしているうちに私も彼に惹かれてやがて付き合うことになった。彼は付き合ってからもやはり真面目に向き合ってくれた。パチンコが好きなところは正直良くは思えなかったけれど、貯金はしっかりと貯めているようだった。  二年という歳月を共に過ごして、私が我に返ってしまっただけのこと。和哉のことが忘れられないというところに結局行きついてしまった。だから、彼にはなんの非もない別れだった。それだけに、罪悪感はそれはもうひどいものだった。  彼は、別れたら友達に戻れるタイプではない。人として好きだったのも本当で、それだけに振った張本人の私自身つらい別れとなったのだった。 「え、本当に別れたんだ」  一通りの話を聞き終えてそう口にしたのは、友人の智花だった。クリスマスの夜だった。智花は私が長い間和哉のことが忘れられないことも知っている。それでも、元彼のことを応援してくれていた。それだけ、本当に素敵な人だったと思う。煙草を吸わない彼が、吸う私に嫌そうな顔をするのも仕方がないとは思っていたが、やめられなかった。ときどき、癇癪を起こして怒鳴られることはあったが暴力は振るわなかった。 「うん、やっぱりどうしても忘れられない人っているんだね」  バーのカウンター席で話していた。時間が早いからか、平日の店内はほかにお客さんはいなかった。 「和哉くんねぇ。話聞いてる限り、なかなかのクズだと思うんだけど」  歯に衣着せないところが智花の良いところだと思っている。変に気を遣われるのはごめんなのだ。 「私もそれは思ってるんだけどね、正直なところ。でも、好きに理由なんてないじゃない」 「まぁ、そういうもんだよね、好きって感情って」  智花もまた、男運の悪さは似ている。彼女の場合は浮気性の男が多いが、私の場合はお金のない男が多い。それに、都合よく振り回す男も。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!