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「次は奈央の番だぜ?」
そう言ってマイクを渡された。私はそれを受け取り「学園天国」を入れた。
「お、いーじゃん」
赤村が嬉しそうにタンバリンを手にもつ。
「Are you leady?」『いぇーーい』
そう、今私達はカラオケにいる。
メンバーは、おなじみ赤村、お姐ちゃんこと森川、そしてS氏こと佐々木。
Xmasということでパーティ兼カラオケ大会を開催中だ。
今は順番にマイクを回し点数で競っている。
「88.64点!!たかっ高くねっ!!?」
学園天国でこんなに点数が取れるとは思ってなかったので驚きだ。
「次は…S氏!頼んだぜ!!」
赤村が私からマイクを取り佐々木に差し出す。
「え…俺はいいよ…」
佐々木は渋々と言った風に机から顔を上げた。こいつカラオケ大会だというのに寝ていたのか…。
「佐々木、歌わねぇと奈央ちゃんが優勝だぜ…?なんでも願い聞いて貰える権利奈央ちゃんが手に入れるんだよ…悔しくねぇの」
そういったのは森川である。低い声でかっこよくシャルルを歌い上げ、87点を叩き出した。
ちなみに赤村はふざけて高音域テストを歌った。歌ったというのが正しいのかは分からないが点数など考えなくてもわかるであろう。
このカラオケ大会で優勝した人はこのメンバー一人に何でも言うことを聞かせることのできるというシステムである。
なぜかそれを私の学園天国が上回ってしまったわけだが…
佐々木は森川の言葉を聞くとなぜか耳をピクッと震わせた。
「…やる」
赤村から風のようにマイクを奪い取り何かを予約した。
「…っ!?」
思わず息を呑んでしまった。佐々木はこんなのも歌うのか。
佐々木が入れた曲はbacknumberの「クリスマスソング」
佐々木の中性的な声がカラオケボックスに響き渡った。
「あれなんで恋なんかしてんだろう」
佐々木はマイクを握り直しまた歌い出す。
「僕のことだけをずっと考えてて欲しい」
まっすぐ画面を見つめ、一生懸命に歌っている。
「……っ…」
横顔が人工的な光で照らされている。
「君が喜ぶプレゼントってなんだろう」
音程は完璧な訳では無い、がどうしてだろう。
聞き入ってしまう。
最後の短い間奏そして。
「長くなるだけだからまとめるよ…君が……」
佐々木は少し言い籠もった。
「S氏〜?聞こえねーぞ??w」
赤村の冷やかしで佐々木は少しだけマイクを握る手を強めた。
「聞こえるまで何度だって言うよ」
まっすぐと画面を見ていた佐々木の目が少しだけこちらに向いたような気がした。
「君が好きだ」
キュン
ん…?え、あ……は…!?えっと、今のは…?
佐々木の顔が完全にこちらに向いた。
少し顔が赤くなっている。頭をかきながら私に聞いた。
「どうだった…?」
少し動揺して言い淀んでしまった。
「え、あっ……上手かった!めちゃくちゃ良かった!!」
「えへへ…ありがと」
佐々木は顔をくしゃっとして笑った。
「佐々木、クソ歌上手いじゃん!見直したわw」
森川が点数待ちをしながら言った。
赤村は佐々木に飛びかかるように肩を抱いた。
「おまえさいこーー!気持ちがこもってた。何?好きなやつでもいんの?」
「いや、別…そういうわけじゃ」
少し期待をしてしまっていたその続きの会話を森川が遮った。
「点数出るよ〜!」
「88.54!!」
佐々木は少し悔しそうにつぶやいた。
「あと0.1かよ…」
というわけで何でも言うことを聞かせることのできる権利は私に渡った。
「奈央〜誰に何をやってもらう?」
答えはなんとなくだが決まっていた。
「来年も、みんなでカラオケしよう…?」
みんなは少しあっけにとられた顔をしていた。
それに答えたのは佐々木であった。
「いいね」
次の瞬間森川が腹を抱えて笑い出した。
「すげぇww奈央ちゃん最高だわwそんな事考えもしなかったけどどうせ強制でやらせられてんだから絶対来年もな!」
「森川笑いすぎwだけどそれいいな、俺も賛成」
カラオケボックスいっぱいが笑い声に包まれた。
ここで私は気がついた。
「てかさ、私らあれ言ってないじゃん」
え、と笑い声が疑問へと変わる。だがそれはすぐに気づきに変わった。
「そういや言ってなかったな」
佐々木がつぶやいた。
私はにんまりと笑った。
「せーの」
『メリークリスマス!!』
つづく
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