第2話 悪女様こちらの準備は整っておりますよ

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「私も人の事言えないのはわかっていて、だって淡い髪色でしょう? 濃い色のドレスが似合わなくて淡い色のドレスばかり着るものだから、ますます締まりがなくて、そして真っ白なあなたの横に並ぶわけでしょう? 仰々しく登場するわりには二人並んで輪郭がぼんやりしちゃうじゃない? どちらかがメリハリのある濃い容姿なら良かったわね。どちらかって、私が遠慮するべきよね。あなたの隣に立つ女性はもっと、」  ヴェルターの微笑みを湛えた表情に、リティアはぐっと言葉を止めた。怒っているから機嫌をとるつもりが“人の事言えない”だなんて、褒めてないって言っているようなものだった。 「君は時々面白い表現をするね」 「そうかしら」    時々というのが記憶に関係する度であるとリティアは自覚していた。とはいえ、ヴェルターはさほど気にしている素振りもなく一方的に穏やかな時間が過ぎた。  リティアはヴェルターを見上げる。それに気づいたヴェルターはにこやかに微笑んだ。まばゆいばかりの婚約者の姿にリティアは複雑な気持ちだった。  バランスが悪い。リティアはおぼろげな過去の記憶らしきものを頼りに、そのことに気が付いていた。自分と王太子の並びは、互いの淡さゆえ絵面がぼんやりしてしまうのだ。兄妹や家族なら違和感はない。だが――婚約者となればそうはいかない。そう思っていたことをついに口に出してしまった。うっかり。そう、ついうっかりだ。  仕方がない。私たちは婚約破棄し、この人の隣には未曽有の悪女、かつ色気のある麗人が並ぶのだ。黒髪が深紅か、青羽根のような髪色でヴェルターと並ぶとさぞかし美しいだろう。
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