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「ラン! お前も手が荒れてるって言ってたよな? 」
レオンが声を張り上げた先に、ランハート・ヴェッティンの姿があった。ランハートは忌々しそうに舌打ちをしたが、おもむろにこちらに合流した。
「まあまあ、さ、手を出せ」
レオンはランハートの右手をリティア、左手をウォルフリックに預けた。
「今から書類を持つというのにオイルなど塗ったは紙にシミができるだろうが」
「はは、もうオイルなんて残ってないさ。パフォーマンスさ。わかってるくせに自分だけ通り過ぎようったってそうはいかないぜ。一部始終、聞いてたくせによ」
“く”“せ”“に”“よ”と一文字づつ区切って都度ランハートの胸を叩くもので、ランハートは顔をしかめた。そして、顔をしかめたままくるりとリティアの方へ体を向けると苦言を呈した。
「次期王太子妃が、自ら手を取って侍女のようにオイルを塗る。いかがなものかと」
「申し訳ありません」
リティアは素直に謝った。
「この人通りの多い場所で」
「はい」
リティアはしゅんと俯いた。ランハートの言う通りなのだから何も言えなかった。
「申し訳ございません。私がリティア嬢にアドバイスを求めたせいで。誤解されても仕方がない行為でした」
ウォルフリックはリティアを庇った。ここ最近、ここでリティアと会っていたことも含め、軽率だったと反省の弁を口にした。
うん、とレオンは頷き、ランハートの顔を伺う。ランハートはやれやれと嘆息した。
「いや、大丈夫だ。あなた方の仲を疑う人間はこの王宮にはいない」
レオンは落ち着いた声で言った。
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