第7話 疑似恋愛

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「あら、お飲みにならなかったんですね」 「ああ。すまないが、もう一杯お茶を入れなおしてくれないか」 「ええ、冷めてしまいましたね」 「この茶葉以外のもので頼む。出来れば頭がすっきりとするものを」 「かしこまりました」  侍女が出て行くと。ヴェルターは空を仰ぎ、目を閉じた。目を閉じるとさっきのリティアとウォルフリックの姿が浮かび、苦く笑った。自虐的な心情だった。今度は俯きもう一度大きなため息を吐いた。いくら吐いても心の靄は胸にずっと張り付いて出て行きそうには無かった。  ヴェルターは、一、二、と指を追った。リティアと婚約してどのくらいの月日が経っただろうか。そして、リティアと婚姻を結ぶ日まであとどのくらいだろうか。 「あと、半年ばかり。ここまで待ってこんな理不尽なことがあるだろうか」  あと半年。その日をずっとずっと待っていた。ようやく念願叶いこの想いが成就するのだと思っていた。神の前で愛する人に永遠の愛を誓い、両手で、この腕で抱きしめられるのだと。……神は残酷だ。今になってこんな出会いをわざわざ用意するのだから。  ヴェルターはの指折り数えた手は止まったままだった。
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