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第8話 建国祭(前半)
◇ ◇ ◇ ◇
リティアの私室にはヴェルターがやってきていた。
建国祭には前乗りでラゥルウントの王、アン=ソフィ・ラゥルウントは王都ルーイヒに滞在していた。勝手にやって来たらしい。
「すごい大変だった。全く、自由な人だよ」
と、ヴェルターは大変だったにもかかわらず楽しそうに笑っていた。リティアはその笑顔に早くも挫けそうになったが、避けては通れないことだと気を強く持つ努力をした。アン女王は王都の王家所有の宮殿に滞在しているらしい。
「僕も明日にはそこへ向かうつもりだ。リティ、君も行かないか? 」
リティアは空気を読んで“予定がある”とでも言うべきか困った。ヴェルターは婚約者という形式上、自分を誘うのであって、本当はどうなのだろうか。真意を測りたくて、ヴェルターの澄んだ瞳を覗き込むが、ヴェルターはいつも通り柔らかに微笑み、急かすことなくリティアの返答を待っていた。
「……行くわ」
そう言った後に
「でも、いいのかしら」
リティアは躊躇する言葉をつい口に出してしまった。
「君が来てくれると嬉しい。アン女王も君にとても会いたがっているんだ」
「……そう、私も、私もアン女王に会うのが楽しみだわ」
リティアは精一杯笑顔を作って見せた。
ヴェルターはリティアの反応があまり良くないことは気づいていた。だが、どうしてもリティアを連れて行きたかった。残り少ない自分の好きに出来る貴重な時間だった。
リティアが頷くとヴェルターはほっとしたが、リティアにその真意は伝わることは無かった。
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