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◇ ◇ ◇ ◇
後日、オリブリュス公爵には比較的質素な馬車が到着した。
リティアもいつもより簡易な服装ではあったが貴族だとわかる程度の物だった。ヴェルターはいくら質素に繕おうと目立つ容姿が隠せるわけもなく、まばゆく輝いていた。
お忍びの行事参加は初めてで、リティアはアン女王とヴェルターのことが無ければ楽しい時間だっただろうと残念な気持ちになったが、もしかしてこれがヴェルターと出かける最後になるのかもしれないと思うと何も考えずに楽しみたいと思った。ヴェルターも日一日と気持ちが固まっていっていた。リティアと出かけるのはこれが最後になるかもしれないと思っていた。ならば、自分の立場も忘れ思い切り楽しむべきではないか。
二人の理由は違えど目的は合致した。
馬車の中、いつになく機嫌のいいヴェルターに、リティアも深くは考えずに賑やかに過ごした。リティアが賑やかなわけも、ヴェルターは深く考えることをしなかった。ただ二人、今からの時間を愉しむだけだった。
馬車は出発した。ヴェルターは懐かしい話を持ち出した。
「リティ、そう言えば、昔はよく木に登っていたけど、最近は登らなのかい」
「登るわけないのに聞いたわね? 」
リティアは昔の恥ずかしい話を持ち出してからかうヴェルターを睨んだ。ヴェルターはそれすら懐かしく顔が緩む。
「昔はリティの方が活発で、剣も練習してたよね。あれはいつの間に止めたのだっけ? 」
「手にマメが出来るのと、怪我したら駄目だからって、結局直ぐにとりあげられちゃって。私相手に剣の稽古をする人がね、万が一顔に怪我でもさせたらって畏縮するものだから、気の毒になって」
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