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「それは、僕の相手もそうかもしれないな。でも僕の場合はそうも言ってられなかったからなぁ。そう言えば昔は叔父上が僕よりリティアの方が剣の才能があるって言ってたっけ」
「ふふ、そうね。でもそれは本当に私にあなたより才能があったわけじゃないわ。そう言わないと私が拗ねて泣いちゃったからよ」
「えぇ、そうだったんだ。僕はてっきり、リティアの方が上手いんだとそこから必死に練習に励んだな。叔父上や父上が暗くなるまで付き合ってくれたっけ。君が可愛く拗ねたおかげで今の僕があるってことか」
ヴェルターは、ちゃめっけたっぷりに笑って見せた。そうなればリティアもふんぞり返って
「そうね、私のお陰」と応戦した。ヴェルターは、吹き出しはしたがすぐに真顔になった。
「リティ、本当は剣、続けたかった? 」
「いいえ、いつの間にか興味が無くなってしまったの。それこそ木登りと一緒ね。今は木を見たって登りたいとは思わない」
「そっか、それならいいんだけど」
リティアは、ヴェルターが自分が王太子妃教育のために忙しくなったことで負い目を感じている事に気づいた。確かに毎日毎日気を抜くことが許されないほど厳しかった。だが、それも今となっては自然に所作として現れ、知識は今後もリティアはを助けてくれるだろう。自分のためにもなったのだ。リティは恨んでなどいなかった。
「それならあなたの方がよっぽっと大変でしょう」リティアは少しばかり同情した。自分以上に大変だったはずだと。ヴェルターはふっと顔を緩ませた。そして言い放った。
「ガラス張りの部屋で用を足す覚悟を持て」
ヴェルターから似つかわしくない話題が出て、リティアはふえ、というこれも淑女に似つかわしくない声がでてしまった。ヴェルターはそれがおかしくてくすくす笑っていた。
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