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「リティ、辛かったら体勢を崩しても構わない。誰も見ていないのだから」
「ありがとう。でも平気よ」
「本当に無理してない? 」
リティは微動だにせず座っているヴェルターにそう言われても心中複雑だった。リティアとて長くじっと座っていることには慣れていた。だがそれは、馬車のように動く場所は例外だった。乗馬ほどではないが体勢を保つには体幹がしっかりしなくてはならない。ヴェルターは細く見えても鍛えられた身体をしているのだろう。……と、リティアはヴェルターが“裸を人に見られる抵抗はない”と言ったことと相まって、自分の想像力がそれ以上掻き立てられないように努力をした。ヴェルターはリティアの返事が返ってこないことから無理をしていると判断したらしい。
「リティ、もたれているといい」
ヴェルターは自分の肩をとんとんと叩いた。肩を背もたれに預けろ、という意味だった。が、リティアは道なりが穏やかなことを確認するとおもむろに立ち上がった。ヴェルターは突然のリティアの行動に目を開き、咄嗟にリティアの体を支えた。
「リティ、何を……」
「ありがとう、ヴェル」
リティアは驚くヴェルターの横に控えめに腰を下ろした。まだ状況が理解できていないヴェルターはきょとんとしたが、直ぐにリティアが自分の肩に身を預けてきたことで正気を失った。
リティアはヴェルターが自分の肩に寄りかかれという提案をしてきたことに驚いたが、彼の表情から一切の深い意味はないのだと、意識した自分が恥ずかしくなった。断ろうかと思ったが、馬車の揺れに辛くなってきたのは事実で、何よりこの申し出はもう二度とないのかもしれないと思うと、勇気を出してヴェルターに身を預けた。
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