第8話 建国祭(前半)

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 そして、直感的に思った。“私、この人を好きになる”と。  リティアにとって待ちに待った悪女の登場シーンだった。   「こちらは、リティア・デル・オリブリュス。僕の婚や、」  ぎゃーぎゃードタバタという騒音でヴェルターの声がかき消された。我先にと競い合って階段を下りて来るのは、数人の子供たちだった。リティアは呆気に取られてその状況を見ていた。 「この子たちはみな、私の子供たちです。まだ教育が行き届いていません。ですから、このくに……」  アンの言葉はそれ以上聞こえなかったが、代わりに苦笑いしたがヴェルターが説明をした。 「アンは、わが国のような幼少期からの国立アカデミーを建設したいんだ。だから、この国で孤児院やアカデミーを視察予定だ」 「そう! よろしくね、リティア! 私の事はアンと。あっちの強面はペール。ああ見えて彼は私より若いのよ! 」  子供たちの声の中、リティアが聞き取れたのはそれだけだった。 「実際にこの国を子供たちに見せたかったみたいだ」  子供たちは口々に挨拶をしてくれたが、それぞれがそれぞれのタイミングで話すもので誰一人名前を覚えられなかった。1、2、3、数えてみると10人はいるだろうか。悪女と悪名高いかの人は、自国民を“私の子どもたち”と呼んだ。リティアはその一言で王が本気で国の未来を考えていることがわかった。子供たちがアンに対し好き勝手しているということはアンがそれを許しているということだ。
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