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「ふふ、怒声や悲鳴ってきっと子供たちの騒ぐ声だったのね」
「え、ああ。それと……」
「静かにしなさい! ここへは招待していただいているのよ!? お母さまは恥ずかしいわ! あの方は美しい顔をしているけど、強い強い剣士なのよ? あとで稽古をつけていただくんだからね。お利口にしていないともう呼んでもらえなくなりますよ」
アンにそう言われたヴェルターが一番驚いていたし、ペールはぎょっと細い目を見開いた。
「あー、大丈夫、僕は、教えるのは上手だよ」
ヴェルターの恐れを抱いた目で見つめる子どもをどう扱っていいかわからない様子にリティアはくすくす笑った。
「笑ったな、リティ」
「ごめんなさい。だって、ふふふふふ」
リティアはこらえきれずに声を出して笑った。ペールには平気でじゃれついている子供たちが声を荒げたことさえないヴェルターを恐れることがおかしかった。
「一先ず、僕たちも着替えて来ることにしよう」
「ええ。では、失礼致します」
ヴェルターとリティアは和やかな雰囲気の中、しばらく滞在する部屋へと向かった。
「美しい方ね。驚いちゃった」
「ああ。そうだね」
ヴェルターはいつもの顔に戻って同意した。
「この後は本当に子供たちと剣の稽古をするの? 」
「うん、彼ら、体力が余ってそうだったしね。僕は怖い人じゃないって信じてもらわなきゃならないし」
ヴェルターはいつもの顔だが、いつもよりリラックスしている。だから、いつもは二人の時にだけ言う冗談も出て来るのだろう。
「ふふ、そうね。では私はどうしようかしら」
「何言ってるんだ。リティ。君も強制参加だよ。アンならきっと着替えて剣を持ってくるはずだ」
「アン女王が? 」
「そ。それと、彼女の事だけど、ここではアンと呼んだ方がいい」
「え、ええ」
彼女の事を良く知っているのね。そう思ったがなぜか口に出せなかった。
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