678人が本棚に入れています
本棚に追加
外から賑やかな催促が聞こえる。子供たちは剣の稽古をとても楽しみにしているようで、リティアはのんびりもしてられないと着替えに急いだ。
滞在先には自分の侍女は連れてこなかった。ヴェルターが用意すると言ってくれたし、アン女王とヴェルターの様子を見てミリーが何かを悟るかもしれない。リティアはここに滞在する間くらい、穏便に過ごしたかった。
軽装に着替え、侍女が部屋を出て行くと、リティアはパンと両頬を叩いた。
「よし! 今は何も考えずに楽しまなくっちゃ」
部屋から出ると、そこにヴェルターが立っていた。
「……待っていてくれたの? ごめんなさい、待たせてしまったわ」
「まさか。こんなに早く出てくると思わなかったよ」
ヴェルターは柔らかく笑う。市民のようなシャツとトラウザーズという軽装でも隠し切れない美貌に“お忍び”なんて無理じゃないかしら、とこの日からの予定を案じた。ヴェルターはリティアの一つに結い上げた髪を見ると、懐かしいなと呟いた。
「昔に戻ったみたいだね、リティ」
「ほんと、とても身軽で動きやすい」
激しく動くことなんて長く必要としなかった。令嬢は病人のように白い肌が求められ、活発であることは良しとされなかったのだ。
「そうだ、リティ。さっき言おうと思ったんだけど」
ヴェルターはここで足を止め、くるりと体をリティアの方へ向けた。それ倣ならいリティアもヴェルターを見上げた。
「確かにアンはとてもきれいな人だけど、僕は君もとっても綺麗だと思うんだ」
ヴェルターはそう言っていたずらっ子のように笑った。リティアはあまりのことにポカンとしたがすぐに顔がリティアの髪色のように染め上がった。
最初のコメントを投稿しよう!