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「ヴェ、ヴェルったら! もう。いつの間にそんなことを言えるようになったのかしら。いいのよ、いいの。こんな格好の時まで褒めてくれなくても! あ、あなたも素敵よ。どんな格好でもあなたは王子様なのねって思っていたの。ああ。何を言ってるのかしら。子供たちが待ってるわ。行きましょう」
リティアは急かすようにヴェルターを追い立てた。
「はははは」
ヴェルターは上機嫌で声を出して笑っていた。
リティアはヴェルターの背中を押しながら、呼吸を整えた。
ヴェルターったら、今日会ってからずっと子供みたいなんだから。彼なりに羽目を外しているのかもしれない。気持ちが浮ついているのだろうか。
リティアはパタパタと顔を仰いだ。
「あら、どうしたの? リティアは顔が真っ赤だし、ヴェルターはなんだか満足そうね」
修練場で待っていたアンが言うと、ヴェルターは噎せこみ、アンをじとりと睨む。アンはそれにおかしそうに肩を揺らした。そして、ヴェルターに何やら耳打ちし、ヴェルターは顔を覆い、手でやめろとアンをいなした。
親し気な二人の様子にリティアはヴェルターの上機嫌な訳をアンと紐づけた。
「さあ、誰から教えようか」
ヴェルターが大きな声で言うと、子供たちはさっきと打って変わって勇ましい声を上げた。リティアは、ヴェルターが恥ずかしいとああやって違うことに意識を向ける癖があったのを思い出した。よく見ると、色の白いヴェルターは耳がほんのりと赤くなっていた。
一番勇ましい声を上げたのは子供、ではなくペールだった。ヴェルターは呆気にとられたようで、ペールを見つめるも、ペールは何も言わないため、アンに説明を求めた。アンはおかしそうに笑うと
「ペールったら、さっき私がヴェルターのことを強い強い剣士で、あとで稽古をつけてもらうって言ったのを、なんというか、すごく楽しみにしてたのよ。ねぇ、ペール誰よりおりこうにしてたのよね」
アンがからかったにも関わらず、大男はこくりと素直に頷いた。
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