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「あらあら」
アンはにっこり笑って、すっと立ち上がった。
「ペール、集中が切れたね」
ヴェルターが額の汗を拭った。
「いや、見事でした」
「はは。まさか。君の力を逃してばかりで、情けない。まともに受けた最初の一撃で手のしびれがまだ取れない。強くて重い剣だ」
「あなたの剣はとても繊細だ。学ぶことが多い」
二人は握手し、子供たちからは拍手が聞こえた。アンはペールをねぎらっているようだった。リティアもヴェルターの元へハンカチを持って行った。
「ありがとう」
それから、小さな声で怪物だよ、あの人と愚痴を言った。
「ふふ、同等に渡り合ってたじゃない」
「まさか。加減したと思う。無礼講とはいえ僕は“王子様”だからね」
リティアはアンの言葉が聞こえていたのか自分で言うヴェルターに笑ったが同時に納得もした。確かに、こんなきれいな人と剣を交わせると緊張しそうだ。絶対に顔には傷をつけられないって……。
「さあさ、みんなの番ですよ。剣を持って」
アンが言うと年齢も体格もバラバラの子どもたちは好きな剣を手に取った。子供用のあまり重くない木製の物だ。
「私が見本を見せましょう」
アンは模造ではない真剣をペールが止めるのも聞かずに物色している。しなやかに美しいアンは剣術にも覚えがあるのだろう。リティアは羨望の眼差しを向けた。アンはやがて気に入った剣が見つかったのか一本を手に取った。
リティアはああ、と感嘆する。真のヒロインはなんだって出来るのだ。美しく気高い姿に信仰心さえ芽生えそうだった。素敵だわ。
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