第8話 建国祭(前半)

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 が、ペールが血相を変えてアンに駆け寄った。アンは、剣が重たかったのか、剣を立てかけたところから持ち上げるのに悪戦苦闘していた。 「大丈夫よ、ペール。このくらい私だって持ちあげられるわ」  ペールはアンには逆らえないのか渋々剣を持つのを手伝い、アンの後ろに回った。  アンは、右へふらふら、左へふらふら、ついには剣を地面に突き刺してしまい抜けなくて四苦八苦していた。見兼ねたペールがすっと地面から抜いて剣を一番軽い物、おそらく子供用に作られたもの――をアンに渡し、アンはその剣をを満足そうにそれっぽく振り回して見せた。剣術を学んだことのある者なら、子供だましであることがわかる。 「ふっ」  ヴェルターが吹き出し、アンの手から剣を抜き取ると模造剣に変えた。アンの不服そうな顔を見ると、ヴェルターはこらえきれずに声を上げて笑った。 「あはは、あははははは。アン、出来ないならペールに頼めばいいのに。全く、剣術も出来るなんて、君はなんて完璧なんだと感心していたのに。君って本当に面白い人だ。あはは! 」  ヴェルターはのけぞって笑い、アンは赤面した。ペールまでそっぽを向いて肩を揺らしている。子供たちの中には模造剣を持ってよろめくアンの真似をする者もいた。アンはそれにますます顔を赤くした。  あんな風に笑うヴェルターを見るのはいつぶりだろうか。王宮を出てからのヴェルターは子供の様で、リティアの胸はぎゅっと絞られたようになった。 「やっぱり、あのセリフ、本当に言うんだなぁ」  リティアはヴェルターの心からの笑顔にアンに夢中だと顔に書いてあるのでは、と思った。可愛い。美しく凛としたアンも今は子供の様に恥ずかしさにむくれている。あんな可愛い顔を見せられたら、ヴェルターもきっとたまらないだろう。
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