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「わが国でもそうなのです。だから、女性だからといって剣を持ってはいけないということはない。そう教えたかったのですが……。失敗してしまいましたわ。代わりにあなたが素晴らしい技を見せてくれた。女でも出来てもいいし、出来なくてもいい。それぞれ目指すところに行けばいいのです。その見本になってくれた」
アンは自分のさっきの姿を醜態とばかり頬を赤らめたが、お忍びとはいえこの外交に身分も性別も能力さえばらばらの子どもたちを連れて来るにはそんな思惑があったのだろう。
「でも、私の剣術なんて幼いころのもので、今は全然」
「ええ、でも、無駄ではなかったわ。ほら女の子たち、あなたみたいな可愛らしい人が剣を持ったことで俄然やる気をだしてくれた。だから、あなたには、ありがとう」
そうか、女の子だって剣を持っていいという意識だけでも向けられたなら、役に立ったのかもしれない。リティアは少しばかり明るい気持ちになった。あの頃のリティアには剣を続けるという選択肢が無かった。だが、それを当たり前だと受け入れていたリティアにとって剣を置くことが辛いとも悲しいとも思わなかった。本当は続けたかったのだろうか。剣を置くことを惜しむ人もいなかった。自分には大して才能が無かったのだ。
「いいえ、お役に立てて良かったわ」
リティアはそう気持ちに折り合いをつけるとやっと笑顔を作ることが出来た。
「リティア、あなたはどうして剣術をやめたの? 」
今まさに自分に問いかけていたことを聞かれて、リティは直ぐに応えた。
「王太子妃教育に剣術は入っていなかった。それに、才能もなかった」
「そう……。では、あなたはやめたかった? それとも続けたかった? 」
リティアは言葉に詰まった。そうだからそうした。でも、あの時自分はどう思っていたのだろうか。剣術だけでなく、手放したことは多い。剣術も大人になるにつれて無くなる興味の移行の一つだったのだろうか。
「わからない」
リティアはわからなかったのだ。
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