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「そう。責めてるわけじゃないのよ。私も似たような立場だからよくわかる。それに、今からだってしようと思えば出来るわ。あなたの夫になる人はあなたが剣術を始めたって反対しないと思うわ」
アンはにっこりと微笑んだ。
「ええ、そうね」
リティアも微笑みを返した。“夫になる人”はそうだといいなと思った。どんな人と自分が結婚するのかまでは考えたくなかった。リティアは何とか話を逸らせたくて話題を探した。幸いにもタイミングよく休憩の時間になり、運ばれてきたお茶やお菓子に子供たちが歓声をあげた。リティアはほっとしたことを誰にも悟られないように努めた。
「まぁ、私たちもいただきましょう」
そう言ってアンとともに輪の中に向かった。ヴェルターが二人にも飲み物をすすめる。
「……楽しいものだね」
「そうね、あなたは教えるのも上手だわ」
アンがヴェルターを褒めるとヴェルターは返事をせずに数秒アンを見つめ、二人は見つめ合うことになった。
「……ありがとう、君よりはね」
アンがカッと顔を赤くした。ヴェルターの肩が小刻みに揺れ、笑い出してしまった。
「ひどいわ、ヴェルター! 」
「だって、君の様子だとかなりの腕前のように期待するじゃないか。まさか、剣もまともに持ち上げられないだなんて、見掛け倒しもいいとこで……君の顔ったら」
アンはヴェルターを睨んでいたが、ついには吹き出し、二人は顔を見合わせて、子供のように笑った。このまま笑い転げるのではないかと思うほどだった。
落ち着いた頃、ヴェルターは笑い過ぎて出た涙を拭いながら、リティアに賞賛の言葉を掛けた。
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