第8話 建国祭(前半)

23/24
前へ
/200ページ
次へ
「ヴェルター、アルデモート卿が来たという事は何か急ぎの事案があったのでは? 」 「いや、大したことはないよ。マルティンも、あの格好を見てわかるように仕事を終えて僕たちのように休暇に入ったってことだ。で、ここに合流しただけのこと。僕たちより短い貴重な休暇を僕たちと過ごそうというのだから彼って本当に、変わってる」 「仕事熱心なんでしょう。それか、会いたい人でもいるのかしら」  マルティンはアンに面識があったはず。と、勘ぐったけど、マルティンがアンにうっとりする素振りはなく、単にヴェルターに報告のためにこちらに合流しただけのようだった。  剣の激しくぶつかる音がして、そちらに目を向けた。ペールの高い位置から振り下ろされた剣をマルティンが何とか受け止めていた。次はペールの突き上げる剣を避け、それからもひぃひぃ言いながらもマルティンは全て受け流し、避け、ペールの剣は一度もマルティンに当たることは無かった。 「すごいだろう。マルティンは守りに限っては誰よりも長けている。体力さえ続けば永遠に逃げ切るんじゃないか? ただ一切攻撃出来ないから勝つことはないんだけどね」 「ヴェルター、文官に剣を握らせるなんてあなた面白がってるでしょう」 「そうだね、マルティンも気分転換になるだろう。なんせずっと室内にいる彼は白くって」  ヴェルターも白いが、とリティアは思ったが、何というかペールとマルティンの勝負はあまり緊迫感が無く、珍しい見世物のようだった。ほおっておいたら永遠に続きそうで、頃合いをみて止めてあげてねとリティアはヴェルターにお願いをした。 その後、やっと解放されたマルティンは恨めしくぐちぐち言っていたが、ペールは大変満足そうだった。 「初めて出会うタイプの剣士だ。この国に来たかいがありました」 「まぁ、そうでしょうね」  マルティンは肩で息をしながらすべての感情を失った表情で答えた。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

675人が本棚に入れています
本棚に追加