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「では、そろそろみんな準備をしましょうか」
アンが子供たちに声をかけるとみんな元気に返事をした。この後はお祭りモードになっている街に素性を隠していくつもりだった。
「でも……」
リティアはともかくヴェルターは容姿の特徴から明らかに王室の人間であることがわかる。マントを被ったところで隠しきれるものではないだろう。
「ヴェルター、リティア、あなたたちにも我が国の侍女を向かわせますからね」
アンはそう言って背をむけた。
「侍女ってラゥルウントから連れてきた者よね。わざわざなぜ? 」
リティアの疑問に、ヴェルターは楽しそうに笑った。
「今日のために、ラゥルウントの魔法をかけてくれるってさ。言っただろう? 」
「……魔法。 本当だったの? 」
リティアはアンたちと会ったことで頭の中からすっかり消えていたラゥルウントの噂を思い出した。稀代の悪女アン=ソフィ・ラゥルウントが統治する王国。大国をも蹴散らした小国は、特異な力を持つ……。
「ははは、楽しみにだね。では、あとでお迎えに上がるよ、僕のレディ」
ヴェルターは楽しみでたまらないといった様子でリティアに礼をした。
「……は? 」
“僕のレディ”ですって?ここには今だれもいないのに。
リティアはヴェルターの後ろ姿を見送ったまま驚きで動けなかった。遅れて、かぁ、っと頬が熱くなるのを感じた。
「どうしちゃったの、あの人」
ヴェルターが非日常に浮かれているのは確かだ。それだけだ、それだけの事。意味はない。リティアは息を整えようやく動き出すことができた。
「まぁ、リティア様、顔が赤いですわ。日焼けされたのかもしれません。大変だわ。直ぐに冷やすものをお持ち致します」
王室からの侍女は赤い顔のリティアを見て慌てた。
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