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第9話 建国祭(後半)
リティアはおとなしく顔を冷やされていた。
頃合いを見てラゥルウントの侍女が何やら仰々しい準備を始めた。手袋をして、鼻と口を布で覆っている。王室所属の侍女たちも態度には出さないが興味津々といった様子だ。だが、止める者がいないということは危険なことではないのだろうとリティアは身を任せることにした。リティアも襟元や首を布で覆われ、顔には丹念にクリームが塗られた。
やがて、プンとした匂いが鼻を突く。そうだ、とリティアは思い出す。ここへ着いた時もほのかにこの匂いがしてた。薬草だろうか。そう考えていると侍女はブラシで整えた髪にどろりとしたぬかるんだ沼のようなものを塗り始めた。何が何だかわからないが、不快な状態でしばらく放置され、優雅に茶をもてなされ、しばらくして頭は綺麗に洗い流された。洗髪の際のマッサージが秀逸でリティアはうとうとしたまま鏡の前に座らされた。
リティアは鏡に映った自分の姿を見ると瞬時に目が覚めた。
「髪が」
髪がいつもの色ではなく明るいブラウンに変わっていたのだ。
「すごい! 」
リティアは驚きで目を見開き侍女の方を振り返った。
「ええ、我が国の染料技術の一つです。リティア様の髪は大変美しい色でしたが今日は目立たぬようにとのご命令でしたので。髪は傷むことなく元に戻せますのでご安心ください」
侍女はそう言って笑った。王国の侍女たちもほおっと感嘆のため息を吐いた。魔法の様だった。
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