第9話 建国祭(後半)

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 ラゥルウントの侍女は手際よく後片付けを終えて、後の身支度は王国の侍女が担当する。ドレスでもない簡易な服装で侍女たちより身軽な平民になりきるのだ。そう時間はかからなかった。平凡なブラウンの髪になればまるで別人になったみたいで、気分が軽くなる。王太子の婚約者という重圧から解放され、ただのリティアになった。ただ、容姿の凡庸さも際立った気がしてそれなりに複雑な気分だった。  リティアは準備が終わってもずっと自身の髪に触れ感触と色を確かめていた。 「……不思議ね」  手触りはいつもより良いくらいだ。もし、今後目立つことを避けないといけない状況に陥れば、こうやって身でをひそめるのもいいのかもしれない。リティアはつい婚約破棄後の事を考えていた。 「リティア様。殿下、いえ、ヴェルター様がいらっしゃいましたが」  リティアははっとした。 「ええ、すぐに行くわ」  今日明日だけは、楽しまなければ。リティアは何度目だろうか。そう気持ちを切りかえた。ドアを開けた瞬間、目の前にいた人にはっと息を吞んだ。それはヴェルターも同じだった。  それはそうだ。どうして気づかなかったのだろう。ヴェルターはリティアより姿を隠さなければいけない人なのだ。目の前のダークブラウンの髪を揺らして立ち尽くすヴェルターは、リティアを新鮮な気持ちにさせた。真珠の銀髪に目がいかなくなった分、顔立ちの美しさが際立つのだ。リティアはそのまばゆい姿は髪のせいではなかったのだとすぐに声を掛けられずいた。 「リティ、誰かと思ったよ。どこからどう見ても……」 「普通の女の子って感じかしら? 」
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