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リティアはついヴェルターの尋常でない容姿を前に自虐的になったが、ヴェルターはそうは言わなかった。
「ああ、人に紛れられていいね。近くにいる僕だけがその可愛い瞳に気づけるんだから」
リティアはどうにでも褒めてくれる人だと感心した。
「瞳……。そうか、瞳はそのままなのね」
「ああ。さすがに瞳までは技術では何ともできないからね」
ヴェルターは笑ってもみせた。淡い淡い白に近いブルーの瞳は夜の街では近づかない限り気づかれないだろう。
「行こう。一応二人っきりだ」
「一応……? 」
ヴェルターは微妙な顔をした。
「そう。僕たち同様、警備の者たちが国民として祭りを楽しんでいるらしいよ」
「なるほど」
階段を下りると、マルティンが見送ってくれる。元々ブラウンの髪にヘーゼルの瞳を持つ彼は髪色を変えなかったようだ。ヴェルターが言うには室内にこもりっぱなしのマルティンはあまり顔を知る人がいないらしい。だが、髪を手入れしてもらったのか、いつもは毛先の方向が定まらない彼の髪はおとなしくしていて、マルティンはそれが気に入ったのかずっと髪を撫でていた。
「マルティン様も一緒に乗ればよかったのに」
比較的質素な馬車の中だった。
「遠慮したんだと思うよ」
ヴェルターの言葉にリティアはどうして?と首を傾げたがヴェルターは困ったように笑っただけだった。
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