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身分を隠すため馬車は広場に着く手前で止まり、二人で歩くことになった。リティアはいつものドレスの重さもヒールもない靴に随分歩きやすいと感動した。だが……ドレスのふくらみが無い分ヴェルターとの距離が近いのだ。いつもヴェルターの腕を取っているというのにこの日は並んで歩くだけで妙に気恥ずかしかった。気恥ずかしいゆえの饒舌はいらぬことを口走ってしまわないようにするのに気を付けなければならなかった。
「ヴェル、あなたの髪の方が私より暗いブラウンなのね」
「ああ。うん。そうだね。黒にしたかったんだけど僕の髪はどうしても黄味が強く出てしまってこのブラウンが限界みたいだね」
「へえ、そうなの? 黒って、どうして黒にしたかったの? 」
黒よりブラウンの方が目立ちにくいだろうに。ヴェルターはほんの少し笑ったかのように見えたが、答えることは無かった。
目的の広場へ近づくにつれて人が増え活気づいてくる。
「さぁ、いい匂いがしてきた。今日はここで夕食を済ませようか」
「え、ええ」
日が暮れると、濃いブラウンの髪も黒とそう変わりなく見えるのではないか、リティアはそんなことを思った。
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