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あちこちでいい香りがする。どれも美味しそうに思えてヴェルターとリティアは何を食べるか真剣に悩んだ。どれも初めて食べる物ばかりだった。こんな楽しいことがあるだろうか。
「あれは何かしら」
リティアがパイのようなものを指さすと、買うと決まっていなくても店主が快く答えてくれる。
「肉を細かく叩いたものと野菜を中に入れて焼いたものだ。美味しいよ」
「へぇ、では……」
リティアが一つと言おうとする前にさっと割り込む者があった。呆気に取られているうちにその男は店主からそれを受け取ると一口含み、じっくりと噛む。
「うむ。この食べ物は問題ない。いや、問題なくうまい」
ヴェルターがぶっと吹き出した。
「僕たちにも一つ」
ヴェルターが笑いをこらえながら料金を支払い、店主は奇妙な客に首を傾げた。
「……ヴェル、もしかして今の男性……」
「ああ、どこかで見たことがある」
「くっ、ふふ」
リティアがおかしくなって吹き出す。ヴェルターが見たことあるといことは、宮廷に従事する誰か、なのだ。それからも、二人が何か買おうとするたび横入りする者が現れ、時に男性で時に女性であった。大勢の物が偶然にもここへ遊びに来ているのだろう。
ある店主は「毎年ここまで厳しくないが、今年は店を持つ者の検査や管理が非常に厳しかった」と愚痴を溢し、ヴェルターが申し訳ないと謝罪し店主は首を傾げた。
「ヴェルったら、お忍びでしょう? 」
「どこがだよ。いったい何人がついて来てるんだ。さっき入った店なんて半分が見知った顔だった」
「仕方がないわよ、ヴェル」
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