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リティアは慰めたが
「治安が良い王都さえ信じられないのか、全くあの者たちは」
ヴェルターは一瞬何かを思いついたように真顔になると、ニッと笑う。そしてさっとリティアの耳に口寄せた。
「走るよ、リティア」
リティアの手を取ると、人ごみの中へと走った。広場の真ん中では音楽に合わせて多くの人が立ち止まり、語り合い踊り、祭りを楽しんでいた。
軽く息の上がるところでヴェルターは足を止めた。
「どうせ、どこにでも配置してるんだろうけどね。ちょっとくらい困らせてやりたい」
「そうね」
ヴェルターらしからぬ行動だった。繋がれた手は直ぐに離され、リティアの手にいつまでも余韻を残した。もう少し触れていたかった。そう思って自分で驚いた。リティアはいくら気づかない振りをしようと日に日に現実が辛くなっていた。
そうか、私はヴェルターをちゃんと特別に思っていたんだ……。
大きな音で演奏される音楽、賑やかな雑踏の中にいるのに音が遠のいていった。
「リティ? 急に走ったから疲れた? 」
「あ、い、いいえ。賑やかで楽しいわね」
「そうだね」
若い恋人たちが、音楽にあわせ自由に体を揺らしている。リティアたちの知ってるダンスとは違い、楽しめばいいといった決まりのないものだった。
気持ちが昂って来るのだろうか、恋人たちの距離感や仕草にリティアは目のやり場に困った。時々はやし立てる声が聞こえるが、彼らはお互いしか見えていないようだった。自由に恋愛が出来るここではよくある光景なのだろうか。
「リティ、僕たちも行ってみよう」
すっと手をリティアに差し出す。ヴェルターの誘いにリティアはどきりとした。リティアとヴェルターは婚約している。だが、今となっては先が不透明で、幼馴染といった方がしっくりくる。恋人ならば、あのように近づいても自然なのだろう。ダンスのようにお互いの動きや距離が決まっていない。どうすればいいのだろうか。ヴェルターはどうするつもりなのだろうか。
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